れた。――弁慶蟹をつかまえ、怒らせておいて、その手にマッチの棒をはさませ、火をつけるのである。火はだんだん燃えてゆく。蟹はそのマッチの棒を怒りに任せてはさんだまま、火が手元に近づいても放さず、熱くなっても捨てることを知らず、ただ手を打ち振るだけで、遂に火傷する段になって、マッチをはさんでる手を根本からぼろりと自らもぎ落して、逃げてゆく……。
その話を、秦啓源に伝えると、彼に真面目に言った。
「その蟹は如何にも日本的だ。全く日本的だ。」
その説に、吾々は率直に同感したのだった。
ところで、私の注意を惹いたことが一つある。
私は秦啓源と波多野洋介とを交際させたかった。それで、秦に向っては、波多野のことをいろいろ話し、波多野に向っては、秦のことをいろいろ話しておいた。勿論さしさわりのない事柄だけではあったが、それを、秦は黙って聞いたし、波多野も黙って聞いた。それから「五郎」で、私は二人を紹介した。
土間の棕櫚竹の鉢植えのそばで、つっ立ったまま、彼等は、互いにじっと見合った。時間にして僅か数秒だったろうが、それが何としても不自然だと思えるほどの長い間、じっと見合った。それも、顔立を眺
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