か繰り返された。恰も、神子は背後のことをも見通しで、美春の姿態を戒めてるかのようであり、美春は神子の視線を恐れながらも、蠕動に引き入れられるかのようであった。
遂に、美春は合掌を解いて畳に伏し、両手から両膝へかけて蠕動した。その状がまさしく蛭のようであった。その瞬間、神子は卓上の如意を取って振り向きざま、美春にさしつけた。その威にぴたりと押えられて、美春はもう身動きもならなかった。
神子はやはり細目ながら、眼尻をつりあげ、血の気の引いた蒼白な顔になっていた。立膝で少しくにじり寄って、更にぴたりと美春を押えた。そして威圧的な低声で言った。
「また来おったな。退散を命じたに、また来おったな。そこ動かずに、望みあらばいえ、何なりと言え。」
美春は無言で伏していた。
「不埓な。再び来ることならぬ。退散せよ。」
美春はぐったりと畳に伏したきりであった。
神子は如意を引いて、元の風に戻り、読経を続けた。美春は静かに身を起して、合掌の姿勢に戻った。読経の声はひとしきり高くなった。
そのまま時がたって、やがて、読経が突然にやんだ。神子はしばし黙祷して、それから徐ろに向き返り、軽く会釈した。
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