紫檀の大きな卓上に、白木の小机が置かれていて、それが白布で覆われ、白布の上に金襴を敷いて、黒塗りの厨子が安置されていた。厨子の両扉は閉ざされたままで、なおその上、五つの丈夫な真鍮の帯が扉ごと取巻いていた。それは寧ろ堅固な箱で、どうして開くものやら分らなかった。その厨子に対して、蝋燭が二本ともされ、香が焚かれていた。
 照顕さまの神子は、四十とも五十とも年令の見分けのつかない女で、細面で色が白く、眼を半眼に開いているというより細めているという感じの、無表情な蝋細工のような顔だった。髪を生え際はすっきりと鬢は大きくふくらまして取りあげ、紫紺色の着物に同じ色の袴をはいていた。同じような服装で髪をおさげにした童女が一人、室の下手の隅に控えていた。――他にも一人、屈強な男がついて来たが、これは自動車の中に運転手と共に居残って、決して座敷へは通らないそうだった。
 美春さんが室の中央に坐っていた。痩せた小柄な女で、病中だと思わせるほど髪の艶がなく、その代りに眼が光り、へんに口が尖って見えた。ずっと下って、身体の不自由らしい白髪の老人がいた。近所の人らしかった。
 秦と千枝子とは襖ぎわに控えた。
 
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