ものらしく、本体は神霊らしいが、そこのところは神秘の奥に閉ざされている。戦争後たいへん信者がふえ、霊験あらたかだとのことだった。その照顕さまに、辰吉は頼むことになった。そして祈祷をして貰ったところが、美春は蛭の本体を現わしたそうで、それを祓い落してもらってから、彼女の夜の悩みは遠のいたらしい。
西浦夫妻は照顕さまの信者になった。そして美春はまだすっかり恢復していないので、なお一回の祈祷が行われ、更にもう一回行われることになったのである。
西浦の妻が時折、蛭に欝血を吸わせているから、美春が蛭の本体を現わしたのも不思議ではないと、大田梧郎は簡単に解釈した。然し、それだけでは片付けられないものがあった。この種の事柄がいつもそうであるように、話だけでは真相は掴めなかった。
この美春の一件は、吾々の中でもごく少数の者しか知らなかった。ただの話題とするには、あまりにばかばかしかったか、或はあまりに奇怪だった。秦啓源は最も深い関心を持ち、波多野を通じて、次回の祈祷に列席することの許しを得た。ところが前日になって、魚住千枝子が同じ許しを得てることが分った。西浦夫妻にとっては、信仰に垣根はなく、二
前へ
次へ
全25ページ中14ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング