こんで、ウイスキーの杯を重ねた。そして突然きりだした。
「君は伯父さんのことは万事知っているだろうが、隠さずにいってくれないか。一体、伯父さんの今の財産は、どうして出来たんだね。」
「自然に出来たのでございましょう。」
「自然に……。それなら伯父さんが自慢にしていられるあの壺、金銀が一杯はいっていたとかいう壺は、あれは本当に海から出たのかね。」
「それは私は存じません。けれど、あなた様はどうお考えでございますか。」
「分らないから聞くんだよ。」
「私はもと船乗りをしておりまして、海のことはよく知っておりますが、あの壺が長く海につかっていたものでしたなら、貝殻がついたり藻が生えたりしまして、なかなか容易に落ちるものではなく、むりに落せばいろいろ傷がつきます。あの壺にはそういう傷はないようでございます。」
「うむ分った。……それから、伯父さんは時々旅に出られるが、別に商売の用でもなさそうだし、いつも曖昧らしいが、大体どの方面におもに行かれるのかね。」
「私もよく存じませんがあなた様はどうお考えでございますか。」
「分らないから聞くんじゃないか。」
「奥様やお嬢様へのおみやげ物は、大抵、上海
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