ます。」
曹新は立上りました。
「ですから、何処の何者とも知れない他人のお医者に、奥様のお身体を任せるなどということを、御承知になる筈はございません。」
曹新はつっ立ったまま、徐和の顔をじっと見ましたが、その表情に何物も読み取ることは出来ませんでした。月明りで見る徐和の顔は、まるで木の面でもかぶったようでありました。
「君は本気でそんなことをいってるのか。」と曹新は徐和のそばにつめ寄りました。
「はい、嘘は申しません。」
「それなら、尋ねるが、君はふだん、伯母さんを……好きだったのかい。打明けてくれないか。」
「滅相もないことを仰言います。奥様を御大切には思っておりますが、召使の身分として大それた考えは決して致しません。」
「然し、伯父さんは僕に、医者とか医学とかを信用しないといって、昔風の煎薬と塗薬とだけを頼りにしていられるが、それと、君が今いったことと、どちらが本当だろう。」
「どちらも本当でございましょう。」
「どちらも本当……。」
曹新は何かにぶつかったように口を噤みましたが、ふと調子を変えました。
「も一つ、杯を持って来てくれないか。」
「はい、何になさいますか。」
「
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