の用心にね。」
 徐和が黙っているので、曹新はいいそえました。
「危篤な病人のそばでは、こちらに気付薬が必要だからね。」
 徐和は上目使いに曹新の顔を見てそこに腰をおろして尋ねました。
「そして、お医者のことは、如何でございました。」
「だめだ。」と曹新は吐き捨てるようにいいました。「伯父さんはどうしても承知しない。」
「左様でございましょう。私には分っておりました。」
「なに、分っていた………どうしてだい。」
 徐和は黙っていました。
「その訳を聞こうじゃないか。どうしてだい。」
「それでは申しますが、私はあの時、旦那様の厳しいお眼を、二度拝見しました。奥様がお倒れなさる時、両手で抱きとめましたことをお話しますと、旦那様は恐ろしい眼付で私を御覧になりました。それから、御介抱申す時、お足に湯たんぽをあてて差上げお胸に芥子《からし》をはって差上げたことをお話しますと、旦那様は一層恐ろしい眼付で私を御覧になりました。」
「それが一体、どういうことになるのか。」
「私にはよく分っております。下男の身分で憚りもなく、奥様を抱きかかえたり、お肌に手を触れたりするのは、不埓なことだというのでござい
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