と冷紅がいいました。
「御心配なことでもありますの。」
崔範は静かに頭を振りました。
「御心配なことなどはございません。いえ決して、そのようなことはございません。」
徐和は強くいいきって、それでも全く表情の分らない顔付で、熱い茶をくんできて差出しました。
崔範は茶碗を無心にもてあそびながら、ゆっくり茶をすすり、それから扇を取って立上りました。
「少し外へ出てみましょうか。」
「ええ、それがよろしいわ。」と冷紅は答えました。
少し薄暗い次の室を通りぬけると、広庭へおりる石段がありました。そこの扉を開いて、徐和が頭をさげて佇んだ時、冷紅は声を立てて駆け出し、崔範は石段の上に竦んでしまいました。
その時、明るい真昼の中に見えたのは、冷紅にとっては、空低く飛んでる真白な美しい一羽の鳥でした。けれど崔範の眼には、それが真黒な鳥と見え、その暗い影がたちまち眼界を蔽い、頭のしんまでおしかぶさってきました。彼女は瞼をふさぐ力もなく、手の扇を半ば開いて持ち上げかけて取落し、自分も棒のように倒れかけました。
瞬間に、徐和が彼女を支えました。彼女の全身の重みが託されてくるのを徐和は両腕にしかと抱
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