のんでいました。僅かな感動にも頬から血の気が去りました。
初夏の暑い或る日、崔之庚は早くから用達しに出かけていて、崔範と娘の崔冷紅とが午の食卓に向っていました。崔範は朝から気分が悪く、食物にもちょっと箸をつけたきりで、食卓に片肱をつき、掌に頬をもたせて、ぼんやり物思いに沈んでいました。
側には徐和がついていました。四十歳ばかりの逞ましい男で、崔家の一切のことを取締り、多くの男女の召使を指図し、来客のある盛宴には自ら料理の腕も振うという、いわば執事であり召使頭であり料理人でありました。若い頃船員だったことがあり、各地の事情にも通じ、いろいろな知識を持っていましたが、どういうわけか、崔家に仕えて、未だ妻も迎えずに暮していました。頑丈な体躯とひどく慇懃鄭重な物腰とが、不思議にしっくりと調和してる男でありました。
徐和は崔範の様子に目をつけながら、全く没表情な顔で丁寧にいいました。
「なにかお気に召すものを、拵えることに致しましょうか。」
崔範はちらと笑みを見せて、答えました。
「いいえ、これで結構です。ちょっと、気分がわるいものだから……。」
「でも、少し召上らなくてはいけないわ。」
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