なかった頃、沖で魚網を投ずると、魚は一尾もはいらず、重い壺が一つかかってきた。天から授ったその壺の中には、金銀が一杯はいっていたという。そういう因縁が、親密な者には彼自身の口から語られる、その壺だったのであります。
 もう一つは、夫人の崔範でありました。三日月型のやさしい眉、澄みきった瞳を宙に浮かした切れの長い眼、細い鼻、小さな口、頬の皮膚が薄く透いて蒼ざめていました。背丈は五尺に足りない細そりした身体でした。崔之庚は家庭の宴席で酒の興に乗ると、この夫人を椅子に坐らしたまま軽々と持ち上げて、客たちの間を運び廻り、最後に奥の室へ連れて行くのでした。夫人はにこにこ笑っていました。彼女は三十五ほどの年配で、崔之庚とは年齢の差が大きすぎました。彼女がまだ極めて年若な頃、崔之庚は彼女を娶る時、彼女の家から老酒の一甕を貰っただけで、彼女に対して、黄絹七反、柴絹七反、毛皮三枚、五個五色の宝石、それに若干の黄金を贈物にしたということであります。「それが私の全財産の半分でありましたよ。」と崔之庚は酔余の上機嫌でいったことがありました。
 崔範は身体が弱く、外出することもあまりなく、いつも香りの高い煎薬を
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