という気持さえ失ってるのです。だから重いのです。そしていつまでも一つ処にじっとしているのです。
 その眼が、広い空間に……。いや、地面があるようです。明暗定かでない空間の下に、茫とした地面が、大地があります。何処まで続いてるか分らない、はてしもない大地です。
 眼は大地の上に据っているのです。そして動こうともせず、揺ごうともせず、自身の重さで、いつも一つ処にじっとしています。
 おかしなまた癪にさわるような眼です。大きな石で地面の中に叩き込んでやりたいような眼です。四方八方に見開かれてる目玉だけの眼です。
 転がることさえ出来ないのでしょうか。そう、地面の上にどっしり居坐っています。下の方は少し地面にめり込んでいます。自身の重さでめり込んでいます。
 動こうとしないから重いのです。重いから動かないのではありません。長い間にはだんだん地面にめり込んでゆくでしょう。今も少しずつめり込んでいます。
 地面が柔いのでしょうか、眼がよほど重いのでしょうか。眼は次第にめり込んでゆきます。もう半分ばかりになっています。更に沈んでゆきます。
 遂に眼は地面に没しました。明暗定かならぬ空間と大地です。

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