……その眼を、崔之庚は徐和のなかに見出しました、また自分のうちにも見出しました。

 五年後の春さきのことでした。風もなく随って紅塵もないうららかな日、曹新が崔家へ戻って来ました。
 崔家はよほど様子が変っていました。崔之庚はこれまで、貧しい姻戚の人々は殆んど寄せつけませんでしたから、家族の者とては前記の通り数名で、ただ男女の召使ばかり大勢いました。ところが、道院から戻って来ると彼は、親戚間の往き来を初め、貧しい人たちには彼の家へ来て住むことを許しました。そして次々に、小さな屋翼が増築され、周囲の土塀も広げられて、今では多人数の一家となっていました。彼等の農耕のためには充分の所有地がありました。そして家族が増すと反対に、崔之庚は次第に孤独な生活に閉じ籠り、遂には殆んど外出することもなくなり、来客にも余り逢わず、読書のうちに蟄居しがちになりました。
 曹新は大勢の者に珍らしげに迎えられました。彼はもう洋服ではなく、ごく平凡な支那服をまとっていました。その代り、沢山の荷物を携えていました。
 その荷物の中から、黄絹七反、紫絹七反、毛皮三枚、五個五色の宝石を、彼は取出して、人前も構わず、予
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