、君の意見に或る真理があることを、この支那の土地で悟った。然しその真理は真理としておいて、君があの時いったことは、みな、今日の伏線だったんだね。秩序や法則の破壊が、君達の目指すところだろう。伯父さんも君も同類だ。だが、変に持って廻ったいい方をして僕を引き込もうとするのは、当分やめたがよかろう。僕にも別に信ずるところがあるんだ。」
 徐和は落着きはらって、きっぱりといいました。
「あなた様は、なにか、大変な考え違いをなすっていられます。私はただお尋ねなさいますことに、お答えしただけでございます。」
 狼狽の気も皮肉の気もない、まともな調子でした。
「それなら、君は伯父さんの一味ではないのか。」
「旦那様がどういうことをなすっておられますか、私はよく存じません。」
「では、伯父さんは成功されると思うか、失敗されると思うか。」
「私には全く分りません。」
「それで君はいいのか。」
「私はただ召使で、旦那様のお側に、善悪ともに、おつきしているだけでございます。」
「それだけで本望なのか。」
「親父もそういい遺しました。仕方がございません。」
「なに、仕方がない。」
「仕方がございません。」
 
前へ 次へ
全28ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング