ます。」
「何とだね。」
「まあ例えて申せば、政治とか権力とか、そのほかのものでございましょう。」
そこで、会話は途切れてしまいました。曹新はしきりにウイスキーを飲み、徐和にも勧め、徐和ももう遠慮なく受けました。
長く沈黙が続いた後で、曹新は足で地面を一蹴りしていいました。
「僕は加担しない。」
徐和は眼を挙げました。
「それでよく分った。僕が内々気遣ってた通りだ。断っておくが、僕には僕の考え方があるから、まあ放っておいて貰おう。」
徐和はその太い眉の下から、怪訝そうに曹新を見つめました。
「よく分ったよ。」と曹新はくり返しました。「いつぞや、君は僕によい忠告をしてくれたことがあったね。これまで研究してきた社会学が、国に帰って来てみると、何だか尺度が違ってる感じがして、僕が途方にくれてることを、君に打明けた時、君はこういうことをいったね。社会学とか政治学とか、そういう法則的なものは、こちらにはあてはまらない。そうした抽象的な法則よりも、なぜ物の学問をしないか。雲の学問でもよいし、実際の物の学問をなぜしないか。言葉は違うが、そういう意味のことを君はいった。その後僕もいろいろ考えて
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