て、不本意なる円満辞職の強制を無くし、各自安心して職務に勉励出来るようにしたいのである。懇談会の儀、お忘れなきよう。以上。
おかしな通牒だ。これに、堀田もサインして、あの卑屈な苦笑を浮かべたのを、私はちらと見て、眼を外らした。腹が立つよりも寧ろ、情けなかった。
時間が実にのろのろたってゆく。退出時刻になると、私は待ちかまえていて真先に立ち上った。
往来に出て、斜陽を浴び、初めて大きく息がつけた。ところが、笠原が私を追っかけてきた。
「ちょっと、一杯つき合わないか。」
私は眉をしかめて、黙っていた。
「焼酎にしようか、ビールにしようか。金は僕が持ってるよ。」
彼はいつも奇妙に金を持ってるのである。独りでビヤホールにきめて、途中でウイスキーの小瓶を買った。ジョッキーにウイスキーをたらして飲むけちなやり方を、彼は却って得意がってるのだ。
秋の凉気に、ビヤホールはすいていた。
「君はどう思う、今日の梅田の通牒を。」
彼は腹立たしげにビールをあおった。私の無関心な態度に、彼はなおいきり立ったようだ。
「懇談会とは何だい。なぜ組合会議としないのか。円満辞職を聊かなりとも……ばかな、こ
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