の失業時代に、聊かなりとも望む奴があるものか。何のことはない、退職希望者を無理にも拵え出して、人員整理に協力しようというわけだ。あいつ一人の考えじゃないね。専務と共謀の芝居に違いない。」
 それから彼はいろいろなことを饒舌った。組合運動などと言っても、オフィスの中に幽閉されてるわれわれは、まるで虚勢されてるのと同じで、何にも出来はしない。会社全体の実情だって、われわれには何にも分らない。会社全体が赤字かどうかも疑問で、現に、三階の広間は、壁が新らしく塗りかえられ、豪奢な椅子卓子が据えつけられて、会社が新たに何を目論でるのか、われわれには見当もつかない。われわれには……われわれには……。
 彼の話を聞いていると、われわれの連発ばかりで、それが哀訴するように響き、へんにもの悲しくなる。愚痴ではなく、憤慨してるのだが、それならば、彼自身、いったいどう動くつもりなのか。
「明日の懇談会には、僕たちで、爆弾を投じてやろうじゃないか。」
 僕たち……やはり、単数の僕ではなかった。力は団結から出て来るものだが、団結は個々の意志に依るものでなければならない。その根本のものが、私たちには欠けてるようだっ
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