の少い妙に寂しい歩廊を、周平は腕を組んで歩き廻った。汽車の出るのが非常に待ち遠いような気がした。
「食べ物でも何でも、好きなように女中へ仰しゃいよ、あなたが家の中の主人だから。」と保子は云った。「でも、勝手に夜遅くまで飛び歩いたりなんかしちゃ駄目よ。……面白いことがあったら手紙をあげるわ。」
 周平は黙ってその顔を見返した。
 汽車が出てから、隆吉がいつまでも車窓へ首を出してこちらをじっと見ていたのが、変に周平の頭に残った。
 彼はぼんやり佇んで、列車の姿が消えるまで見送っていた。淋しい気もした。ほっと安心の気もした。

     十四

 周平は斯くして、横田の家で暑中を過すことになった。眼の小さな足の短い肥った女中が、万事を世話してくれた。
 平素来馴れた家ではあるけれども、居るべき人々が居なくてひっそりしてるので、初め彼は旅にでも出たような気がした。室の隅に寝転んだり、庭を歩いてみたりした。凡てが珍らしかった。
 然し、一週間もたつうちには、その珍らしさがなくなって、室の中の様子から庭の隅々まで知りつくすと、とりとめもない漠然とした空虚を覚えだした。
 友人等は大抵東京を離れてい
前へ 次へ
全293ページ中72ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング