ねて、横田さんに自分の思いをうち明けたのだ。へまだったんだね。直接保子さんにうち明けた方がよかったかも知れないと、僕は思うんだがね。横田さんはそれを聞いて、非常に困ったものだ。何しろ、横田さんと保子さんとの互の気持が、可なり進んでる時なんだろう。それでも横田さんはああいう人だから、自分自身を一歩高い所へ置いて考えた末、保子さんの選択に任せるの外はないと結論したのだ。これは横田さんの人格者たる所以でもあるし、また一方からいえば、聡明なる所以でもあるのだ。なぜかって、保子さんの選択は初めから分りきってる。既に二人の間は、両方の親の了解もあるし、互の気持も進んでるし、それに、吉川さんの家は零落していたものだ。吉川さんは、詩人的素質を備えた天才肌の人だったそうだが、貧乏な天才詩人というものは、恋人にはいいか知れないが、良人としては不向きだね。人間に何となくどっしりした所のある横田さんとは、少し均衡がとれない。どの点から考えて見ても、保子さんは横田さんを選ぶにきまってる。
「所が、保子さんはなかなかその選択を与えなかったのだ。そして、二人に向って或る問いを発したものだ、あなたは私を恋人として愛す
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