えた。二人は平気でその前を通っていった。何にも云うことがなかった。互に離れることも出来なかった。夜気に濡れた電車のレールが、薄暗い中に蒼白く光っていた。
築土八幡の前を通り過ぎて、右へ曲った。
「暗いから危《あぶな》いわよ。」
その言葉が、周平の耳には調子外れに響いた。彼は半ば眼を閉じがちにして、彼女の導くままに身を任せた。
暗い狭い坂途をぐるぐる曲った後、やがてお清は立ち止った。絵草紙や駄菓子などを売っていそうな家の前で、煤けた戸が立ててあった。頑丈な表構えの隣家との間に、漸く人がはいり込める位の狭い路次があった。お清は周平の肩から肩掛を引ったくりながら、目配《めくば》せと一緒に云った。
「汚い家よ。」
路次の奥に、駄菓子屋の裏口と思われる辺に、一枚の開扉《ひらき》があって、外から海老錠《えびじょう》がかかっていた。お清は帯の間から鍵を取出して、それを開いた。中にはいってこそこそやっていたが、電気の釦をひねったとみえ、上の方からぼーっとした光が射してきた。狭い急な梯子段と板の間《ま》が照らし出された。
「何をしてるの。おはいりなさいよ」と彼女は云った。
それでも周平はまだ外
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