然し火《あか》りが洩れてる所をみると、或はまだ竹内が居るかも知れなかった。
 彼は思案に迷って、二三度その前を往き来した。街路は静まり返って、深い夜が立ち罩めていた。
 いつまで待っていても仕方がなかった。遂に彼は扉の前にじっと佇んだ。暫く耳を傾けた後、指先で軽く押してみた。強い抵抗が感ぜられて、もう締りがしてあるらしかった。それでも、彼はなお内の気配を窺った。奥の方に、何やら物音と笑声とが聞えるようだった。彼は更に耳を澄した。
 その時、隣家との間にある狭い路次から、俄に人の足音が起った。彼は家の内部へばかり注意を向けていたので、それが余りに突然で不意だった。気が付いた時はもう、足早な下駄の音が路次から出て来かかっていた。彼は駭然として扉から身を退いた。そして何気ない風を装いながら、。強いてゆっくり歩き出した。所が、すぐ前は四辻で、明るい光りが射していた。身を隠す物影がなかった。咄嗟に彼は、蓬莱亭と反対の側の軒下の暗がりに佇んで、袂から煙草を探ってマッチをすった。それが却っていけなかった。煙草に火をつけてマッチの棒を投げ捨てる拍子に、一寸後ろを顧みると、すぐ其処に、一人の女が立ってい
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