つと立ち去った。
 扉を押して外に出ると、ぞっと寒気《さむけ》がした。其処へ、後から村田が追っかけてきた。
「僕も帰るから、其処まで一緒に行こう。」
 周平は急に涙ぐましい心になって、彼の手を握りしめようとしたが、思い返してそれを止した。自分自身に対して腹が立った。
 乾ききった冷たい空気が、風とも云えない風をなして、襟の裾の間から吹き込んできた。街灯の光りが冴えきってるのに、物の隅々が妙に薄暗かった。
「不愉快な奴だな。」と村田は呟いた。
 竹内のことだと分っていたが、周平は何とも云わなかった。下宿の方へ足を向けると、村田はなお別れないでついて来た。可なり暫くたってから、彼は突然云った。
「何処かへ寄ってゆかないか。」
 眼を地面に落したままで、独語のような調子だった。いつもと様子が異っていた。周平は横目でじろりと見て、すぐに応じた。
「寄ってもいい。」
 二人はそれきり黙って歩いた。然し云い合したように、別の心安いカフェーの前にいつしか出てしまった。
「まあ、暫くぶりね。」
 顔馴染の女中にそう云われて、周平はただ苦笑した。お清の許へ行きつけてから、いつの間にか他の場所へは足が遠く
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