」と保子は云って、向うへ座を立って行った。
周平は定子と向き合って残された。
定子は周平の方を向いて、まじまじと彼の顔を眺めた。彼は次第に顔を伏せてしまった。
「とうからお目にかかりたいと思っておりましたけれど、自由に出られないものでございますから……。」と彼女は云った。「こちらへ伺いますのも、一寸した隙を見て、月に一度か二度のことでございますよ。それでもあなたのことを蔭ながらお聞きしては、心強く存じておりました。隆吉は御存じの通りの不仕合せな身の上でございますから、くれぐれもお頼み致します。」
そういう風に云われると、周平は一方では恐縮しながらも、一方では前からの知人ででもあるような親しみを覚えてきた。
「隆ちゃん、」と定子は向うに黙っている隆吉を呼びかけた、「私にお砂糖湯を一杯貰ってきて下さいね、喉が少し悪いから。」
隆吉はすぐに立っていった。その間に定子は周平の方へ膝を進めて、口早に小声で云った。
「あなたにお詑びしたいことがあって、気にかかっておりましたが、丁度お目にかかって宜しゅうございました。いつぞや、隆吉の父の写真を見たいと仰しゃったそうでございますが、隆吉の前で
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