すが、一寸お待ちなさいよ、聞いてきますから。」
 周平は一人茶の間にぼんやり待たせられた。暫くすると女中が戻って来た。
「すぐこちらへお出で下さいって。」
「僕に?」
「ええ。坊ちゃまのお祖母様《ばあさま》がいらっしゃるんですよ。」
 周平は立上ったが、一寸躊躇せられた。それでも女中がずんずん向うへ行くので、その後についていった。襖のこちらで足を止めると、「おはいりなさい。」と云う保子の声がした。彼はつかつかと中にはいって、誰にともなくお辞儀をした。
 保子と向合って、米琉絣の対《つい》の羽織と着物とをつけた六十足らずの、上品なお婆さんが坐っていた。
「井上さん、」と保子は云った。「この方が隆吉のお祖母さんですよ。」
 周平が何とか挨拶をしようと思ってるまに、向うから先を越された。
「隆吉の祖母の定子《さだこ》でございます。隆吉が始終お世話になっていますそうで、一度お目にかかりたいと思っておりましたが、自由にならない身でございますもので……。」
 周平はただ低くお辞儀をした。言葉の調子や様子などからいい印象を受けた。それでも、何とか云おうとしたがその言葉が喉につかえて出なかった。横の方
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