やがて、横田は将棋の駒を抛り出して云った。
「今日はどうもいかん。またこの次にしよう。」
「とうとう兜をぬぎましたね」と村田は得意げに云った。
 それから二人は、周平の方に話しかけた。周平は浮かぬ顔付をしていた。
 村田が便所に立った時、横田は周平の顔をまじまじと眺めて尋ねた。
「何だかいやに考え込んでるようじゃないか。どうしたんだい?」
 丁度よかった。村田が座を立った僅かな間に、軽く問題を片附けてしまおう、と周平は思った。向うの言葉に頓着なく、いきなり云い出した。
「いつもお世話にばかりなっていまして済みません」
 横田は大きな眼をくるりと動かした。
「なに、お互いっこじゃないか。」
「それに、」と周平は云い進んだ、「こんどなんかは、余分に謝礼を頂いたりして、申訳ない気がします。」
「ああそうだったかね。妻が何か気を利かしたんだろう。……まあいいさ、そんなことは。黙って貰っとけばいいじゃないか。」
 周平は変な気がして、横田の顔を見上げた。横田は眼を外らしていた。右手の指にはさんだ煙草の煙を天井の方に吹かしながら、鴨居の額面をぼんやり眺めていた。
「それでは……、」あなたは御存じ
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