わざわざ訪問したくなかった。実は、隆吉の学課をみてやる月曜なら最も好都合だったが、その日横田は夕刻まで授業があった。それで、最も行き易い水曜を選んだ。
門をはいって玄関に立った時、彼は先ず其処に在る下駄を見廻した。幸にも客は一人か二人位らしかった。彼は安心した。
「丁度村田さんが来てるのよ」と保子から云われた。
彼は先ず保子や隆吉を相手にするつもりだったが、村田なら、その方へ行かざるを得なかった。
横田と村田とは、寝転んで将棋をさしていた。二人共周平の方に一寸眼を挙げて「やあ。」と云ったきり、また盤面を見つめた。周平はその側に足を投げ出した。村田の方が少し上手だった。横田は負けを諦めかねて、幾度もさそうとした。
周平はつまらなくなって、両手を頭の下にあてがいながら、仰向に寝転んだ。窓から青い空が見えていた。その狭い四角な青空の中に、白い断雲がぽつりと現われてきては、またすぐに飛び去っていった。風が少し出ていた。周平は軽い苛立ちを覚えた。立ち上って、書棚の隅から外字雑誌を取ってきては、その※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]絵を眺めたりした。
前へ
次へ
全293ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング