退屈だったろうね。」
「いいえ。」
 次に何か云おうとした時、彼は頬の筋肉がぴくぴく震えるのを覚えた。見えない位に下唇を噛んで、気持を捨鉢な方へ転換して、軽く息をついた。
「あなたに見せたいものがあるのよ。」と保子は云った。「何だかあててごらんなさい。……まあ当りっこはないけれど。」
 少しの曇りをも帯びない露《あらわ》な眼付が、彼の方を覗き込んでいた。
「だし……」ぬけに、と云おうとして彼は言葉を途切らした。横田の前に彼女からの葉書のことを隠すべきか云うべきかを迷った。咄嗟に、そんなことはどうでもいいと考えた。そして云い直した。
「だって、当らないものを当てさせるってことがあるものですか。」
「君、一寸これを見てみ給え。」と横田が声をかけた。
 周平は縁側に出てその方を見た。横田が覗いてる蓮鉢の中に何がはいってるのか見えなかった。庭下駄をつっかけて下りていった。
「あ!」と彼は声を立てた。
 蓮鉢の中には、拇指二倍大位の鰻が十四五匹うようよしていた。
 それは、横田が田舎から持って来た土産だった。小さなバケツの中に藻を一杯つめ、軽く水を浸して、その中に入れて来たのだそうである。五六時
前へ 次へ
全293ページ中151ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング