出てる人で、労働問題を少し研究してる人があった。そして最近、「労働組合と労働者」と題する英語の書物を手に入れた。労働組合なるものの本質を論じたもので、各国の組合が引例してあった。ドイツやフランスやイタリーなどの言葉が出て来た。その人は英語きり知らないので可なり困っていた。そこへ野村から井上の話があった。それならば書物を訳して貰ってもいいということになった。然し、英語以外の言葉さえ訳して貰えば用は足りるのを、半ば義侠的に書物全体の訳を頼むのだから、報酬は極めて少なかった。三百頁足らずの書物で、一頁五十錢位の見当だとのことだった。その代り期日の制限はなかった。
「君は大学に毎日通ってるのだから、どの国語でも尋ねる便宜はあるでしょう。それに、経済上の専門語だって、その人に意味が通じさえすればいいのだから、いい加減に訳して大丈夫です。隙にあかしてやってみませんか。報酬の少いのが気の毒ですが。」
周平は自分にやれるかどうか不安だったが、兎も角もという条件で承諾した。書物はすぐに野村から送って貰うことにした。
「そのうちにはもっといい仕事もあるだろうから、気をつけて置きましょう。」
「お願いしま
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