眼を見据えてる保子の姿が恐ろしくなった。彼はまたお辞儀をした。一寸待った。そして逃げるように二階の室へ上っていった。
二十一
周平は、一月近く起臥《おきふし》した室に、これを最後の気持で身を投げ出した。明日は永久にこの家から去るつもりだった。そうすることが誰のためにも一番よい方法だと思った。
今迄のことを考えると、真暗な森の中にでも迷い込んだ後のような気がした。何かを見定めようとしても、まとまった象《すがた》は一つも浮ばなかった。頭がぼんやりして考える力がなかった。
彼は両手を頭の下にあてがって、仰向けに寝転んで天井を眺めていたが、ふと思い出して、身廻りの物を片付け始めた。身廻りの物といっても、二三枚の着物と四五冊の書物だけだった。彼はそれを丁寧に風呂敷に包んだ。そしてぼんやりと坐ってると、風呂敷包みを手にしてこの家から出ていく自分の姿が、まざまざと見えてきた。その姿が首垂れながらとぼとぼと歩いてゆく、宿りを失った旅人のように。朝早くのことだ。まぐれ犬が裾のあたりを嗅ぎ嗅ぎつけてくる。それでも黙って眼を伏せている。そのみすぼらしい姿が、爽かな朝の明るみの中に、くっき
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