ん、宇山かつは、真白に白粉をぬり、時折は丸髷に赤い手絡をかけ、はでな錦紗の着物などをつけて、客に煙草をねだることもあった。粗末な珈琲や蜜豆や菓子の類が表面の看板で、内実は主として酒場だ。ウイスキーやビールはまあ普通の品だが、日本酒はひどく水っぽい。よほど酔ってでもいなければ、まともには飲めない。
「お上さん、こいつは、ちっとひどいよ。」
「そうですか、どれ……。」
しゃがれた太い声で、お上さんは手を差出して、客の杯を受けぐっと一息に味わう。
「なるほど、これは少しひどいようですね。」
それきりで、澄ましこんでるので、話にもならない。――もっとも、酒の品質の責任は、お上さんにはなく、舞台裏にぶらついている調理人にあったのだ。
だが、勘定の方は主としてお上さんがきめた。勝手にきめた。同じ飲食品でも、時によって高低がある。また、例えば三杯飲むと、一杯分の四五倍もの勘定になることがある。つまり、お上さんの計算では、税金の加算がでたらめなのだ。
そういうカツミで、喜美子はいつも、ほのかな笑みを眼元に漂わせ、可愛いい糸切歯をちらちら見せながら、安らかに振舞っていた。客から言葉をかけられると
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