、短い受け答えをするが、自分から話しかけることはない。室の隅には大きな蓄音機があるが、それは殆んど使われなかった。――私は彼女と二人きりになるのが好きで、彼女の顔を見ながら、別に話をするでもなく、静かに杯をなめるのだが、そういう時、なんだか彼女の薄命とか不仕合せとかいう感情が胸に来て、しんみりとした切なさを覚えるのである。
 そのくせ、或はその故か、桃代がやって来ると、私はほっと安心する。こんな所の女にしてはいやに手の太い、すべてが大柄なぱっとした桃代は、その存在で、喜美子をかばいこんでしまうようだ。
 桃代は若い妓などを連れて、蜜豆をつっつきに来るのだが、喜美子にやさしい眼差しと言葉を投げかける。白紙に包んだ葡萄糖の大きな塊りを、袂から取り出して彼女に与える。
「これ、なんだか知ってる。」
「あら、こないだも頂いたわ。」
 そんな、前のことなどはどうでもいいという風に、桃代はナイフを借りて、小さな一片を切ってやる。
「食べてごらんなさい。うまいわよ。でも、一度にあまり食べると、下痢をするんですって。少しずつ食べるのよ。」
 桃代は喜美子だけにしかやらない。それを、若い妓たちも、お上さ
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