浅墓な感傷だろうか。私は涙を眼にためながら、なにか堪え難い気持ちで、立ち上って硝子戸を開く。すぐ眼の前に、白木蓮の大きな花が咲いている。もう暮れてしまった夜の闇に、青みを帯びて仄白く、造花のようにも見えるし、何かの化身のようにも見える。冷たい大気に漂ってるその香気が、やさしく私の肌を撫でる。私は何かに憑かれたような心地で佇んだ。
その白木蓮の花が、今、桃代の死体のわきに活けてある。桃代の死体は、柔かい布団の中にすっぽりと埋まって、形体も見分けがつかない。彼女はその体躯ごとにどこかへ脱け出してしまったかのようだ。
ちょっとひっそりとした一刻の合間だった。婆やさんがお茶をいれてくれるだけの時間に、私は告別をすました。身寄りの者だという中年の女が出て来て、言葉少なに挨拶をした機会に、私は席を立った。玄関に訪れて来た数人のわきを、私はすりぬけて、表に出た。喜美子はあとに居残ったらしい。
そして加津美の二階の室で、私は桃代の死をはっきり感じ、同時に、彼女の姿をまざまざと思い浮べた。私にとっては、彼女はそこにしか存在しないのだ。――そうだ、ほかの何処にも彼女はいない。その室にだけ、つまりお座
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