心中するかも知れないわよ。」
「ますます怪しからん。」
 然し、桃代の言葉に、私はなにか不安なものを感じた。私の方についてではない。桃代の方についてであり、更に喜美子の方についてである。
 私が黙って考えこんでると、桃代の方から打ち切るのだ。
「もうやめましょう、こんな話。……喜美ちゃん、どうしたのかしら。連れてくるわ。」
 私は一人で飲むだけだ。
 桃代は三味線を持って、喜美子を連れてくる。
「さっきのお詫びに、お稽古をしてあげるわ。梶山さんだから、いいでしょう。お座敷じゃないと思うのよ。でも、ほかのお座敷でなら、決していけないわよ。このお師匠さんが承知しないわよ。……何がいいかしら。梶山さんの……好きなもの……小鍛冶でもやりましょうか。」
 喜美子はいつも、明るい顔で、明るい眼眸だ。糸切歯の笑みが消えると、桃代と向き合って、ぴたりと体勢がきまる。
 桃代は三味線の調子を合せて、ちょっと間を置く。それから掛声と共に、爪弾きだが、二の絃と三の絃がいっしょに、チャンと響くと、喜美子の美しい声が謡いの調子をこなしてゆく。――稲荷山三つの灯し火明らけく。
 そんなことが、私の心にしみるのだ。
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