んとうよ。わたしの方が真剣だから、男の浮気から護ってやるの。ねえ、お上さん……梶山さんだって、浮気だからだめよ。」
「浮気でなかったら、どうする。」
「うそ、うそよ。ほかの女とだって、分りゃしないわ。」
「ほかの女と浮気なんか、するものか。」
「決してしないの。」
「しないよ。」
「じゃあ、わたしとなら、どう。浮気しないの。」
「そうね、君となら、そりゃ分らん……。」
「あとで後悔するわよ。」
「君こそ、あとで後悔しなさんなよ。」
お上さんは、空の銚子を持って席を立った。
「まあまあ、お静かに願いますよ。」
食卓に肱をついてふらふらしてる私の肩を、桃代は捉えて、ぐいと引き起すのだ。
「梶山さん、ほんとに喜美ちゃんが好きなの。」
「うん、好きだよ。」
「どんな風に好きなの。」
「どんな風って……別に愛してるわけじゃないが、ただ好きだよ。本当のことを言えば、喜美ちゃんを見てると、今にたいへん不幸なことが喜美ちゃんに起りそうで、なんだか、胸が切なくなる……そんな風でね……。」
「それ、ほんとなの。」
桃代は私によりかかるようにして、そして突然、すすり泣くのだ。私はびっくりして、彼女の肩
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