らしていた。カツミによく現われて、甘いものや辛いものを飲んでいった。しんから酔っ払ってることはないが、いつも適度に酔ってる風をしていた。しばしば、何か手頃なものを、特別な菓子とか特別な石鹸とか、喜美子に持って来てくれ、ゆっくり話しこんでゆき、また、映画や芝居へ連れ出そうとした。その石塚が、喜美子に対して、次第にしつっこく大胆になってきた時、桃代は彼を或る待合へ誘い込んで、小秀という若い妓とくっつけてしまった。それからカツミで、石塚に出逢うと、どうして小秀さんを連れて来ないかと、そんなことから、巧みな言い廻しで、彼と小秀との仲を皆に披露してしまったのだ。小秀の方は、身体で稼いでいる芸者のこととて差し障りはないが、石塚はへんに照れてしまい、やがてカツミに姿を見せなくなったらしい。――そういうことをした桃代の気持ちが、私には分らないのだ。
 彼女の顔をじっと見ると、彼女もたじろがず見返してくる。
「君はまったく、おかしなひとだよ。」
「どうして。」
「喜美ちゃんのこととなると、すぐ夢中になるからね。」
「妬けるのよ。どうやら、同性愛みたいだわ。」
「ばかなことを言ってる……。」
「いいえ、ほ
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