しか聞えない。私は笑いだした。
「胃が痛むぐらいで、死にゃあしませんよ。」
だが、そのあと、私は坐り直して言ったものだ。
「たとい死んでも……お上さんが今日亡くなっても、明日亡くなっても、喜美ちゃんのことなら、僕が引き受けますよ。喜美ちゃんとなら、僕は結婚してもいい。妻が亡くなったあと、僕は断じて再婚しないつもりだったけれど、喜美ちゃんとなら結婚してもいいな。但し、ここの養女じゃあ嫌ですよ。ただ、喜美ちゃんとだけ……。」
私は真面目だかふざけてるのか、自分でも分らなかったが、桃代も私の調子に乗ってきた。
「梶山さん、強がったってだめよ。富久子さんと浮気も出来ないくせに、喜美ちゃんと結婚するなんて……。」
「浮気をしないから、結婚するのさ。」
「だめよ、梶山さんじゃあ。第一、年があまり違いすぎるし、何から何までつりあわないわ。だから、喜美ちゃんと結婚するなんて、それもやっぱし浮気じゃないの。そんな浮気なら、わたしが封じちゃうわよ。石塚さんと同じことよ。」
石塚のことなら、私もだいたい知っている――。大商店の二男坊とかで、年も若く顔立もととのっていて、きれいにとかした髪をポマードで光
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