い。」
「僕のことじゃないよ。喜美ちゃんが風邪を引きはしなかったろうかと……。」
 彼女は眼を二つ三つ大きくまたたいて、私を見た。
「だから、一杯飲むといいよ。」
 彼女はちょっとためらって、そして微笑む。
「一杯だけよ。」
 その一杯を、幾度にも区切って飲んでから、ねだるように言う。
「桃代姐さん、呼びましょうよ。」
 喜美子の口から、桃代姐さんと、桃代さんと、二通りの言葉が、ごく自然に出てくるのだ。これは他の者には普通にないことだ。姐さんがつく方は、お座敷の場合、つまり芸者としての場合であり、それがつかない方は、ごく親しい気持ちで信頼する場合らしい。その二通りの呼名に、私はへんに気持ちがこだわるのだが、それを喜美子へは説明のしようもない。
「ねえ、いいでしょう。」
 喜美子の言うことには私は逆らえないのだ。私が頷くと、彼女はすぐに立ってゆく。
 桃代姐さんが来るとなれば、私はじりじりと追いつめられて、酔っ払うより外はないのだ――。あの時だってそうだった。もっとも、あの時は初めから、私も彼女も酔っ払っていた。雪が降っていて強いのを飲んだのだ。
 雪の夜はわりに温いというが、その夜はし
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