え。」と彼女は答える。
「もう帰ろうか。」
「ええ。」と彼女は答える。
 どちらにしていいか、私の方でまごつくのだ。ただ、そこで彼女と別れてしまうことは、しにくい。私は彼女について行く。加津美までついて行く。
 加津美へは、喜美子は裏口からはいるが、私はそうはいかない。表からはいれば、座敷へ通されるし、座敷へ通ればお客さまだ。お島さんが万端の面倒をみてくれるし、お上さんも顔を出すし、黙っていても桃代が呼ばれるだろう。
「ちょっと、一人で考え事をしたいから、酒だけを頼みますよ。」
 ぬるい炬燵に半身をもたせて、夕暮の一刻を、とりとめもない感慨に耽るのだが、なにか場違いな心地で落着きがない。逃亡か……酔いつぶれるか……。そこへ、喜美子がお銚子を持って来ると、私はもう他愛なくにこにこしてしまう。
「まあ、電気もつけないで……。」
 喜美子は薄暗いのが嫌いだ。そして私は、彼女に電灯をつけてもらうのが好きだ。
「また、考え事をしていらしたの。」
「うむ、ちょっとね。さっき、焼け跡で、だいぶ長く石に腰掛けていたものだから、風邪でも引きはしなかったろうかと思って……。」
「あら、済みません。御免なさ
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