して気付かなかったろうかと怪しまれるほど、それは如何にもありそうなことだった。門から玄関まで、庭の竹垣と路次の板塀との間の切石を敷いた道がわりに長かった。そして隣りの家と自分の家との、同じ造りで同じ鈴のついている門の音が、誤って聞き取られるのは、風向の加減で、或は風がなくとも耳の調子で、至極無理からぬことだった。私は表に出てみて、箱を二つに仕切ったような二軒長屋を、不思議そうに眺めやった。
そして実際不思議だった。同じ向きで同じ古さで、同じ広さ、同じ恰好、恐らく同じ間取り、二軒続いた板塀からは、どちらも玄関寄りに松が一本と、それよりやや低い檜葉が一本、似寄った枝ぶりを覗かしていた。建築師の一分一厘違わない繩墨で、図面を引かれ拵え上げられた、全く同じな二軒だった。二軒ではあるが、一本の背骨がつきぬけてる、くっついたまま動きの取れぬ長屋だった。
「二軒とも全く同じだね。」
家にはいって私は妻へそう云った。
「そりゃその筈ですよ、同じ形に建てたんでしょうから。」
なるほど、この上もなくはっきりした理屈だが、それにしても変だった。妻の話によれば隣家も私と同じような会社員で、私よりは三つ四
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