心の奥で考えていた。すると、地上に石塊《いしころ》のように投げ出されてる、自分自身が、自分の生活が、遠くの方からだんだん目近に見えてきた。この地球の上に、自分のものという一隅の地面もなく、自分のものという一軒の住宅もなく、自分を養ってくれる食物や金銭の蓄えもなく、その日その日を漸く稼いで暮していて、その上、しっかりよりかかるべき理想とか主義とかを持たず、何のために生きてるのか分らない生活をして、ぼんやり日を送ってるのだった。物質的にも精神的にも、全くの無産者だった。それがいけないのかしら……だが、やはり私にだって、爽かな空気も暖い日の光も、多分に存在しているじゃないか。家を間違えたって人違いをしたって、そんなことを構うものか。きっと上下《かみしも》をつけて納まり返ってるのがいけないのだ。真裸になって皆一緒に手をつないで踊り廻ったら、どんなにか面白いだろう。何にも持たないことは一種の強みだ。
そんな風に私は考えて、非常に晴々とした愉快な気持になったが、それにしてもやはり、自分の家や妻や子供のことを考えると、何だか気になって仕様がなかった。一体どうすればいいというのか?
私は自分の心が
前へ
次へ
全25ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング