て聞いていました。
「伸びるだけ伸びた大きな藤蔓は、もうそれ以上伸びる必要がないから、新たな若い蔓を伸ばさないで、ただ花だけ咲かせるよ。ところが、植木鉢なんかに植わってる藤蔓は、いくら古くても、小さく刈りこまれているから、まだたくさん伸びたがる。蕾といっしょに蔓の芽を出す。だから、蔓の芽をもぎ取って、蕾の芽だけを発育させなければならない。植木屋はみなそうしてるよ。これが人工の技術だよ。」
「それから……。」と美代子は尋ねました。
「その二つだけ。それきりないよ。」
「そんなら、わたし、蔓を伸びるだけ伸ばしといて、あとは、その……自然の技術に任せて、花を咲かせることにするわ。」
「然し、幾年もかかるよ。」
「幾年かかってもいいわ。だけど、来年も咲かせないの。その、なんとかいう……人工の技術、それで咲かせましょうよ。手伝って下さるの。」
「さあ、僕に出来るかどうか分らないけれど、やってみよう。」
「きっとね。植木屋なんかに頼まないで、わたしたちだけで咲かせましょうよ。」
保治は深く頷きました。と同時に、彼をじっと見ている美代子の眼眸に、なにか一徹な熱いものが籠っているのを感じました。彼女
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