く伸びても差支えないほどの支柱を拵えてもらいました。
或る日、草光保治が訪れてきますと、美代子は小さなシャベルで、藤の木の根本を掘り返していました。
「魚の頭や臓物を埋めるのよ。来年はきっと、たくさん花を咲かせるわ。」
彼女は白く透いた頬に、弱々しい然し神経のこもった笑みを浮べました。
そこは、庭の片隅、心持ち斜面をなしてる上手、寒山竹の茂みを横手にひかえてるところで、枯れた自然木の高い支柱の下半分ほどに、藤の青葉がからみついていました。
保治は肥料埋めを手伝いながら、藤の青葉を見て言いました。
「蔓を伸ばすのは易しいが、花を咲かせるには、技術がいるよ。」
「技術って……どんなこと。」と美代子は無邪気に尋ねました。
「花がたくさん咲いてる藤棚などを、よく見てごらんよ。花が出ているのは、大きな古い蔓からだよ。若い細い蔓からは、花は出ない。また、大きな古い蔓でも、若い蔓をたくさん伸ばせば、花は出ない。つまり、こういうことになるんだよ。古い蔓から、新らしい芽が出る。その芽が、若い蔓になって伸びてゆくか、蕾になって花を咲かせるか、どっちかだね。それが、自然の技術だよ。」
美代子は黙っ
前へ
次へ
全17ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング