てみる気になりました。然し、妹と一緒でなく、一人で行くことにしました。
細川の人々は、厚木の近くに移転していましたし、そちらへは、保治も帰還後すぐに訪れていました。焼け跡はまだそのままになっている筈でありました。
薄い断雲が空を流れてる暖い日でした。保治はとりとめもない瞑想に耽ってる気持ちで、而もなにか新たなものに立ち向う心構えで、目黒駅からゆっくり足を運びました。
広い焼け跡のなかに、細川の家の跡は、度々来馴れた場所のこととて、すぐに見当がつきました。ゆるい傾斜地の工合や、すぐ近くのコンクリート塀などが、場所をはっきり指示してくれました。
それにも拘らず、保治は暫く立ち止りました。
焼け枯れた木立は、ごく短い切株を残して、すっかり伐り採られていました。瓦礫やトタン板が散らばっていました。大小さまざまな石が、何に使われていたものとも分らず、意外にたくさん転がっていました。そして一面に赤茶けた焦土でした。その全体の面積が、如何に小さかったことでしょう。細川の家と隣家とまた隣家と……それらが其処に建ち並んでいたとは、到底思えないほどでした。それだけの人家が消滅して、後にその僅かな
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