採用してみようとしたらしいのだ。」そして彼は苦笑しました。
 ところで、高賓如と柳秋雲とは差向いで、暫く時間を過しました。
「条件はただ、絶対に秘密を守るということだけです。分っていましょうね。」
「承知しております。」
 それだけの応対で、あとはとりとめもないこと、軽い文学の話や果物の話などをしました。
 彼女は方福山の招宴の時と同じように髪を結び、髪飾りをつけ、ただ着物は同じ淡青色ながら、絹が繻子に変ってるだけでした。そして内心に何か堅い決意を秘めて、それを頼りに表面温和にしてるらしいのが、見て取られました。高賓如はその内心の決意みたようなものを探りあてた時、同時に、彼女が懐に何かを、恐らくは小さな拳銃でも、忍ばしているのに気付きました。然し素知らぬ風をしていました。
 彼は説明していいました。「若い女の胸は、手を触れずにそっとしておいてやるべきだ。少くともそれが僕の立前だ。」
 そして三十分ばかりしますと、呂将軍は急務を片附けて隙になりました。高賓如は柳秋雲の先刻からの来着を知らせました。呂将軍はちらと険しい眼色をしましたが、すぐに顔色を和らげて長い髭を撫でました。
 呂将軍は平
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