呂将軍がおり、他方に方家同族の老人がいましたが、方福山は始終両方へ顔を向け、少し離れてる高賓如大佐や荘一清などへも呼びかけました。食物のこと、風俗のこと、上海のカニドロームやハイアライのこと、広東の黒人風呂のこと、印度奇術のことなど、ただとりとめもない事柄で、それを彼は旅の土産話として聞かせるのでした。そしてあちこちへ向けられるその眼には、時折、穏かな笑顔を裏切って、それらの話とは全く別個な、そして六十近い年配とは思えないなにか底強い光が、人の肺腑を貫くようにちらと輝きました。
 彼のそばで、呂将軍は山のように泰然としていました。ゆっくり物を食べ、ゆっくり酒を飲み、余り口を利かず、大きな体躯をどっしりと落着かせていました。けれども、長い髭は力なく垂れ、顔の色はくすみ、眼はどんよりとしていました。彼の阿片嗜好はひどく昂じてるとの噂がありました。
 方福山が初め、荘一清と汪紹生とを紹介しました時、彼はただ眼を二三度まばたきしただけで、二人の顔はよく見ないで、呟くようにいったのでした。
「君達のことは前から聞いていた。わしは君達を、いつも洋服を着てるものと思っていたよ。」
 荘一清が曖昧な微
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