用件がある時は、僕の家へ来て下さい。あんなところへ来て、あれは誰だと聞かれたら、あなたも困るし、僕も困る場合が、ないとも限らない。隠れ家では、すべて身元を明るくしておく必要があるんです。」
「それでは、隠れ家の意味をなさないね。」
「そうです、あべこべになっちゃった。呂将軍の影響ですね。呂将軍のクーデタの噂が、相当に拡まっていましょう。そのため、スパイがばらまかれている。あの連中ときたら、秘密は隠れたところにばかり転ってるものと思ってますからね。秘密の方で先手をうって、明るいところへ移動したってわけですよ。あなた方も、何かやるなら、この戦術を使うんですね。ところで、あなた方は、どちらと連絡があるんですか。」
「連絡……そんなものはどこにもない。」
「あなた方になくても、先方からつけてくる。用心しなけりゃいけませんよ。本当の吾々の味方は、呂将軍の方にも、省政府の方にもない。」
「ではどこにあるんだい。」
黒眼鏡の青年は、鋭い視線をちらっと汪紹生に注ぎました。
「なかったら、拵えるんですね。すぐ、手近なところに出来ますよ。いや、もう出来てますよ。面白いことになりそうです。」
丁度、楊柳
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