あまり真面目だったせいか、黒眼鏡の青年はじっと汪紹生の方を眺めました。そして笑いました。
「あなたは正直だ、だから僕はあなたが好きなんです。……当ててみましょうか。若い女か老年の紳士か、いずれそんなところへ贈るんでしょう。」
汪紹生は黙っていました。
「少しいいすぎましたか。なあに、心配はいりませんよ。」
二人は中海の岸に出ていました。枯蓮の池は蕭条として、午後の陽に冷たく光っていました。楊柳の大木の並木の下には、通行の人もありませんでした。
その楊柳の一本の影に、黒眼鏡の青年は急に立止って、内隠しから、小布に包んだ物を取出し、汪紹生に差出しました。
「お頼みのものです。古物だが、まだ使われてはいません。ちょっと錆びてたところは、僕が磨いておきました。」
汪紹生はそれを受取りました。小布の中には、ボール箱に、革のサックのついた小型の拳銃がはいっていました。
「操縦は簡単だから、分っていますね。弾は十個だけあります。そいつが、実は厄介でしたよ。」
汪紹生はそれをまた小布に包んで、内隠しにしまいました。そして紙幣を二十枚渡しました。
「それから、あとのは、どれほどあげたらいいかし
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