幾つか拾い出すことが出来ました。例えば、散るためにのみ美しい蓮の花を讃美する者は誰ぞ、伸びそして拡がるために美しい蓮の巻葉の香を知る者は誰ぞ、という質問が提出されていました。槐の並木の白い小さな花が、はらはらと街路にまきちらす感傷主義を、土足で踏みにじり得る者は果して誰ぞ、という質問もありました。黄塵にまみれた古い洋車に、磨きすまされたランプがつけられている象徴を、理解する者は果して誰ぞ、という質問もありました。
 それらのことに最も敏感だったのは、汪紹生でありました。また、彼女が荘家を去って陳慧君の許に戻ってゆくことについて、大きな損失を内心に最も感じたのも、汪紹生でありました。彼は一篇の詩を書いて、頬をほてらしながら荘一清に見せました。それは、友情と恋情との間の微妙な一線上にある惜別の感情で、「……沈黙は、愛情を尊敬するからだ。」と結んでありました。
 彼女が去ってゆく前の日曜日の午後、三人は、広い庭園をゆっくり逍遙する時間を見出しました。その時、荘一清が汪紹生の詩をふいに披露しましたので、汪紹生も柳秋雲もへんに沈黙がちになりました。それで、荘一清が一人で何かと饒舌らねばならぬ立場
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