枚めくって、押入の下に当る方を覗き込んだ。薪束の転ってる向うに、蜘蛛の古巣が破けかかっていて、黴臭い床下の地面が茫と横たわってるきりで、何等の異常もないし、少しの嫌な気も漂っては来なかった。
彼はぼんやり座敷へ戻っていった。
「如何でした?」という意味を眼付に籠めて、秋子は彼の顔色を窺った。
「何でもないよ。」と彼は自分自身にも云ってきかせるような調子で答えた。
がやはり、どうも腑に落ちなかった。薄気味の悪い変な押入だ! という気持が、頭の底にからみついてきた。
そこへ清が変梃なものを齎した。
或る夜のこと、電燈の光りが、潮の引くようにすーっと薄らいでいって、ぷつりと消えたかと思うと、またぱっとついた。おやと思う途端に、今度は本当に消えてしまった。座敷に居た秋子は、仏壇の蝋燭を探し当てた。二階からは晋作が、玄関からは清が、手探りにやって来た。そして秋子と晋吉とを加えて、ぼーっと赤い蝋燭の光りのまわりに、皆で集った。かと思うと、じきに電気が来た。なあんだという眼付で互に見合った。
お茶でも飲もうということになったが、生憎鉄瓶の湯がぬるかった。清はそれを瓦斯の火で沸しに、台所へ立
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