所が或る日、陰鬱な雨がじめじめ降り続いてる午後、その女中部屋で、けたたましい叫び声がした。座敷に居た秋子と台所に居た清とが、両方から同時に駆けつけた。見ると、窓の下に、こちらに背を向けて、晋吉が棒のようにつっ立って居た。秋子が真先に駆け寄った。晋吉は真蒼な顔をして、暫くは口も利けなかった。漸く口を開かしても、ただ窓の外を白い物が飛んだというきりで、詳しいことは更に分らなかった。彼自身も半ば夢心地だった。
「それごらんなさい、云わないことではありません。」と秋子は、勝ち誇った語気で、そしてそれをわざと不気味そうな表情で押っ被せて、良人に云った。「小学校にも通ってる晋吉が、あんなに喫驚するくらいですから、普通のことじゃありませんわ。」
 晋作もさすがに一寸気を惹かれた。彼は怪力乱心をこそ語らなかったが、楽天家相当の偶然の機縁――それに多少の思想を交うれば、すぐに霊とか奇蹟とかになり得るもの――を否定しはしなかった。で試みに、女中部屋にはいって、あちらこちら歩き廻ったり、一寸屈み込んだりして、腕を組みながら、小首を傾げてみた。
 廊下の障子と室の障子とで二重に漉された明るみが、北の高窓か
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