。それが変に不気味だった。然し押入を開けてみても、清の夜具や荷物や、不用な道具などがはいってるきりで、少しも変ったことはなかった。気のせいだと思って、彼女はそれを黙っていたが、その晩も清は気味が悪くて眠れないそうだった。それ以後清は、玄関の三畳に寝ることにしていた。
そのことが、綾子の話とぴったり合った。
「あなた、どうもおかしいじゃありませんか。」
良人と二人の時、秋子はそう云って話の終りを結びながら、良人の顔を見守った。
額の両側の禿げ込みは可なり深くなってるが、口髯はまだ濃く黒々としている、その先をひねりながら、晋作は薄ら笑いを湛えて答えた。
「その上本物のお化でも出たら、丁度お誂え向だね。」
「え?」
彼女には冗談が分らなかった。
「いやなに、本当の化物屋敷となればね、家賃がずっと下るからいいって訳さ。」
「まあ何を仰言るのよ、人が本気で話してるのに……全くあの室は少し変ですよ。」
「じゃあ、僕が一晩寝て見るとしようか。」
彼は生来の呑気さから、怪力乱心を信じなかった。そして、妻の話をいい加減に聞き流しながら、女中部屋で一夜を明かすという労をも固より取りはしなかった。
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